国際学術誌『Frontiers in Microbiology』に腸内細菌叢の組成データから疾病のリスクを推定する手法に関する当社の論文が掲載されました
腸内細菌叢の組成データから疾病のリスクを推定するための手法を開発
-これまで原因不明とされてきた腸内細菌叢の異常(dysbiosis)に起因する様々な疾病の診断や治療・予防をサポートする新たなツールとして活用可能-
当社の德野らの研究チームは、腸内細菌叢の組成データから疾病のリスクを推定するための手法を開発しました。腸内細菌叢と疾病との関連性は、消化器疾患にとどまらず、アレルギー、自己免疫疾患、肥満や糖尿病などの生活習慣病、がん、神経・精神疾患など多くの疾病に関して報告されていますが、腸内細菌叢の組成から疾病のリスクを推定する手法は確立されていませんでした。本研究で開発された腸内細菌叢の組成データから疾病のリスクを推定する手法は、臨床現場における疾病の診断や治療・予防をサポートする新たなツールとして広く活用されることが期待されます。
本研究では、構造方程式モデリング(Structual Equation Modeling)の手法を用いて、同様の生理作用を持つ複数の腸内細菌(観測変数)によって構成される腸内細菌叢因子(潜在変数)を設定し、この潜在変数(特定の生理作用を表す潜在的な変数)と疾病との関連性を分析することで、疾病リスクを確率値として算出する画期的な手法を開発しました。
論文では、女性のアトピー性皮膚炎(以下「アトピー」)を事例として、腸内細菌叢の組成データからアトピーのリスクを推定する手法を報告していますが、本研究で開発した疾病リスクの推定手法は、様々な疾病に応用することが可能です。そのことを示すため、本研究で開発した疾病リスクの推定手法を用いて、男性の心筋梗塞と女性の認知症の疾病リスク推定モデルを作成し、各々健康者と疾病罹患者の疾病リスクの推定値を算出した事例を上掲しました(図1)。
男性の心筋梗塞の例では、疾病罹患者の約73%が中リスク以上に区分されるリスク推定値を示し、約47%が高リスクに区分されるリスク推定値を示しました。一方、健康者の約75%が低リスクに区分されるリスク推定値を示し、約25%が中リスク以上、約3%が高リスクに区分されるリスク推定値を示しています。この疾病リスク推定モデルでは、男性の心筋梗塞の有無の約65%が当該モデル(腸内細菌)で説明できると推定されました。
女性の認知症の例では、疾病罹患者の約92%が中リスク以上に区分されるリスク推定値を示し、約67%が高リスクに区分されるリスク推定値を示しました。一方、健康者の約83%が低リスクに区分されるリスク推定値を示し、約17%が中リスク以上、約4%が高リスクに区分されるリスク推定値を示しています。この疾病リスク推定モデルでは、女性の認知症の有無の約79%が当該モデル(腸内細菌)で説明できると推定されました。
本研究は、国際学術誌『Frontiers in Microbiology』(2023年1月26日付)に掲載されました。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2023.1035002/full
▶詳細はこちら(PDF)をご覧ください。