非結核性抗酸菌症関連肺疾患の日本人女性患者における腸内細菌叢の異常を解明
-長期的な抗菌薬治療が腸内細菌叢に影響-
掲載誌 国際学術誌 『Biomedicines』(2025年5月21日付掲載) 研究グループ シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 増山 博昭
同上 研究開発本部 香野 加奈子・畑山 耕太
日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野 權 寧博・丸岡 秀一郎・水村 賢司・神津 悠・横田 峻プレスリリース 本研究に関するプレスリリースはこちら(PDF)
非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)による肺疾患(nontuberculous mycobacterial pulmonary disease:NTM-PD)の発生率は世界的に上昇していると報告されています。日本も例外ではなく、発生率が上昇しており、公衆衛生上の懸念事項として認識されています。NTM-PDの治療は難しく、多くの場合、複数の抗菌薬を用いた長期の治療を必要とします。また、抗菌薬を用いた治療が無事に完了した後でも、半数近くの患者で微生物学的再発(再度の非結核性抗酸菌による感染)が起きる可能性があります。しかしながら、NTM-PDの発症・進行のメカニズムついては完全には解明されておらず、その解明が急務となっています。
近年の国外の研究からは、腸内細菌叢の異常がNTM感染の素因のひとつとなっている可能性が報告されています。一方で、日本人の腸内細菌叢は、諸外国とは異なるユニークな構成を示すことが報告されていることから、諸外国の腸内細菌叢の研究結果が日本人にもあてはまるとは限りません。そこで本研究では、治療前、治療中、再発の治療状況が異なる50代から80代の日本人NTM-PD女性患者の腸内細菌叢を調べることで、NTM-PDと腸内細菌叢の関連、さらには抗菌薬を用いた治療の課題を明らかにすることを目指しました。
本研究では、日本人50~80代のNTM-PD患者群(女性20名)と健常者の対照群(健常者群。女性20名)の腸内細菌叢を比較しました。その結果、治療前群と再発群では、Sutterella、Adlercreutzia、Odoribacter、およびPrevotellaの相対存在量が健常者群と比較して少ないこと、Erysipelatoclostridium、Massilimicrobiota、Flavonifractor、Eggerthella、およびFusobacteriumの相対存在量が健常者群と比較して多いことが共通していました(図中AおよびCのアスタリスク)。これらの腸内細菌はNTM-PDの罹患に関連している可能性があります。
また、治療前群と治療中群の間で、健常者群と比較して相対存在量が少ない腸内細菌を比較すると、そのほとんどが異なっていました(図中AおよびBの青色箇所)。さらに、ともに治療を経験している治療中群と再発群の間では、健常者群と違いのある腸内細菌として9つの菌が共通していました(図中BおよびC)。これは、治療後も腸内細菌叢の異常が維持される可能性を示唆しています。

図:NTM-PD群と健常者群の腸内細菌の分類群(属レベル)の違い
効果量が正の値(図の赤いバー)は健常者群と比較してNTM-PD群で相対存在量が多い分類群、負の値(図の青いバー)は少ない分類群を示す。アスタリスクは(A)治療前群と(C)再発群で共通した分類群を示す。
以上の結果から、抗菌薬を用いた治療が、腸内細菌叢のさらなる異常を引き起こすだけでなく、変化した腸内細菌叢の構成を長期的に固定化し、それが治療後のNTM-PDの再発に関連する可能性が示唆されました。したがって、再発を防ぐためには、治療後にプロバイオティクスやプレバイオティクスなどによる積極的な腸内細菌叢の改善を行うことが有効な手段の一つと考えられます。また、これらの結果は、日常的に腸内細菌叢を良好な状態に保つことがNTM-PDの有効な予防策になることを示唆しています。そのため、腸内細菌叢の状態を定期的に検査し、必要に応じて食生活等を介した腸内細菌叢の改善に取り組むことがNTM-PDのリスク回避につながると考えられます。
本研究で明らかとなったNTM-PDと腸内細菌叢の関連性は、NTM-PDの発症・進行のメカニズムの理解、腸内細菌叢をターゲットとする新たなNTM-PDの予防・治療方法の開発につながることが期待されます。
原論文情報
Kanako Kono, Yutaka Kozu, Shun Yokota, Kouta Hatayama, Kenji Mizumura, Shuichiro Maruoka, Hiroaki Masuyama, Yasuhiro Gon.
Gut Microbiota Dysbiosis in Japanese Female Patients with Nontuberculous Mycobacteria-Associated Lung Disease: An Observational Study. Biomedicines 2025, 13(5), 1264.
https://doi.org/10.3390/biomedicines13051264