国際学術誌『Biomedicines』に軽度認知障害(MCI)に関連する腸内細菌叢の異常と腸内細菌叢の組成データを用いた新たなMCIの診断(リスクの推定)方法に関する当社の論文が掲載されました


軽度認知障害(MCI)に関連する腸内細菌叢の異常を解明、腸内細菌叢の組成データを用いたMCIの診断(リスクの推定)方法を開発
-認知症を予防する新たなアプローチの実現も視野に-


当社は、腸内細菌叢と疾病の関連性に関する研究と、腸内細菌叢の制御による疾病の予防・改善方法に関する研究・開発に取り組んでいます。このたび、軽度認知障害(mild cognitive impairment, MCI)と腸内細菌叢の関連について、お茶の水健康長寿クリニック及びあしかりクリニックと共同研究を行い、MCI罹患者群の腸内細菌叢の特徴からMCIに関連する腸内細菌叢の異常(dysbiosis)を解明し、腸内細菌叢の組成データを用いた新たなMCIの診断(リスクの推定)方法を開発しました。

MCIでは認知機能の低下はありますが、正常な認知と認知症の中間状態であり、まだ認知症ではありません。しかし、MCI罹患者は認知症に進行するリスクが高いことが知られています。認知症は、一度発症すると治療が困難ですが、MCIでは正常な認知機能に戻る場合があります。MCI罹患者への適切な介入を行うことができれば、認知機能の改善、または認知症への進行を抑制できる可能性があります。そのためには、早期にMCI罹患者やMCIリスクが高い人を発見することが重要です。また、効果的な治療や予防のためにはMCIの発症・進行のメカニズムの理解が不可欠です。

当社の畑山らの研究チームは、認知機能が腸内細菌叢の影響を受ける可能性を検証するため、MCIと腸内細菌叢の関連性について研究を行いました。より具体的には、70代日本人のMCI群と、疾病に罹患していない対照群との腸内細菌叢を調べ、MCIと腸内細菌叢との関連性について調査しました。調査にあたっては、性別を考慮し、男女別に比較を行いました。その結果、男女に共通して、MCI群に多い腸内細菌の分類群としてClostridium_XVIII、EggerthellaErysipelatoclostridiumFlavonifractor、およびRuminococcus 2が、MCI群に少ない分類群としてMegasphaeraOscillibacterPrevotellaRoseburia、およびVictivallisが観察されました。これらの腸内細菌についての既知の特徴から、MCI群の腸内細菌叢の構成は、腸内細菌叢の調節異常、腸管バリアの透過性増大、血液脳関門の透過性増大、および慢性神経炎症の亢進を引き起こし、その異常が長期間持続することによって最終的に認知機能低下につながるというメカニズムが導き出されました(図1)。

さらに、本研究では、上記のようなMCI群の腸内細菌叢の特徴に基づき、腸内細菌叢データを用いたMCIの診断(リスクの推定)方法を新たに開発しました。これによってMCI罹患者とMCIではない健康者を高い精度で判別できることを示しました。

本研究によって、MCIに関連するdysbiosisの全体像が明らかとなったことから、MCIの発症・進行のメカニズムの理解、治療や予防方法の研究・開発が大きく進展することが期待されます。また、新たに開発したMCIの診断(リスクの推定)方法を用いることによって、MCI罹患者やMCIリスクが高い人を簡便かつ効率的にスクリーニングすることが可能となります。本研究の成果はMCIから認知症への進行を抑制または防止することによって認知症を予防するという新たなアプローチの実現につながるものです。

軽度認知障害(MCI)に関連する腸内細菌叢の異常(dysbiosis)の概要とMCIリスクの推定

本研究成果は、国際学術誌『Biomedicines』(2023年6月22日付)に掲載されました。
https://www.mdpi.com/2227-9059/11/7/1789

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