抗生物質以外の薬 - 薬と腸内細菌の関係②

抗生物質以外の薬と腸内細菌の関係



私たちの健康にとって重要な腸内細菌叢(腸内フローラ)。


その腸内細菌叢が、どのような種類の腸内細菌で、どのように構成されるかは、私たちの食事、ライフスタイル、病気などさまざまな要因で変化します。


そうした要因のなかでも、薬の服用は腸内細菌叢に大きな影響を与えることが近年の研究で明らかになってきました。


特に抗生物質は、細菌の生育を抑制する薬であるため、腸内細菌叢に影響することは容易に想像できます。(コラム「薬と腸内細菌の関係①:抗生物質」参照)


しかし、実は抗生物質以外の薬でも、さらには、複数の薬を組み合わせて服用することによっても、腸内細菌叢に影響があることがわかってきました。


目次[非表示]

  1. 1.特定の薬による腸内細菌叢の変化
  2. 2.腸内細菌叢に悪影響を与える“薬の併用”
  3. 3.薬で変化した腸内細菌叢を回復するには?
  4. 4.最後に


特定の薬による腸内細菌叢の変化


国内外で行われた研究において、腸内細菌叢に影響を与えることが明らかになった薬には、抗生物質以外にプロトンポンプ阻害剤、メトホルミン、下剤などがあります。


これらの薬に関する腸内細菌叢の変化について、以下に詳しくご紹介いたします。


■プロトンポンプ阻害剤


プロトンポンプ阻害剤は、胃酸の分泌を抑える経口薬で、消化性潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの治療に使用されます。


服用することで胃酸が減少し、口腔内に存在する細菌が腸内へ移動・定着することが可能になり、その結果、もともと腸内に存在していた細菌が減少し、腸内細菌叢が変化する可能性があります。


プロトンポンプ阻害剤の服用者では、このような現象が腸内細菌叢の「口腔化」として観察され、口腔に存在するStreptococcus(ストレプトコッカス)属、Rothia(ロシア)属、Actinomyces(アクチノマイセス)属、Micrococcaceae(マイクロコッカス)科の細菌などが腸内で増加する傾向があります。


これまでにも、抗生物質の投与後に腸内細菌叢が変化すると、Clostridioides difficile(クロストリジオイデス・ディフィシル)感染症の発症リスクを高めることが知られていましたが、プロトンポンプ阻害剤の服用でも同リスクを高める可能性があることが報告されています。


■メトホルミン


メトホルミンは、肥満を伴う2型糖尿病の治療に使用される経口薬で、血糖降下作用などがあります。


2型糖尿病の罹患者では腸内細菌叢の変化が観察されることが知られており、その変化は病気自体により引き起こされると以前は考えられていました。


しかしながら、実際にはメトホルミンの服用によるものである可能性があります。


近年、神戸大学の研究グループにより、メトホルミンには「血液中のブドウ糖を大腸から便の中に排泄させる」作用があることが示されました。


このことから、メトホルミンの服用によって大腸に排泄されるブドウ糖が、ブドウ糖を資化する特定の腸内細菌を増やすことにつながっている可能性が考えられます。


また、海外の別の研究では、メトホルミンを服用することでEscherichia (エシェリキア)属の腸内細菌が増加し、Intestinibacter(インテスティニバクター)属の腸内細菌が減少したことが報告されています。


メトホルミンを服用している人のなかには、下痢、腹部膨満感、吐き気といった胃腸系の副作用が起きることも知られています。


もしかすると、これらの症状は、このような腸内細菌叢の乱れが一因となっているのかもしれません。


■下剤


下剤、なかでも浸透圧性下剤は、腸内細菌叢に短期および長期の影響を与える可能性があります。


ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とした浸透圧性下剤は、浸透圧勾配を利用し、腸内で水分分泌を引き起こすことで便を軟化させ、排便回数を増加させます。


ヒトでの詳細な研究は不足していますが、マウスを使った実験では、PEG投与により腸内細菌叢が変化することと、それが腸の浸透圧の乱れによる間接的な結果である可能性が示唆されています。


そして、その腸内細菌叢の変化は投与後数週間経っても持続する傾向が報告されています。


以上のように、特定の薬の服用により腸内細菌叢に影響があることがわかります。


また、試験管レベルで1,000を超える市販薬を調査した研究によると、その24%が腸内細菌の増殖を阻害することも報告されています。


腸内細菌叢に悪影響を与える“薬の併用”


複数の薬の併用や薬の量が多くなることによって、服用している人に不利益(薬物有害事象)が生じることがありますが、これはポリファーマシーと呼ばれています。


日本人約4,200例を対象とした研究では、服用する薬の種類が増えるにつれて腸内に日和見感染症を引き起こす病原菌が増え、腸内細菌が有する薬剤耐性遺伝子の量が増加し、免疫恒常性と関連する腸内細菌が減少するという、好ましくない変化が起きることが報告されています。


ポリファーマシーの一部は、複数の薬の併用による腸内細菌叢への悪影響に起因する可能性があるようです。


薬で変化した腸内細菌叢を回復するには?


服用した薬によって変化した腸内細菌叢は、服用を中止することで元に戻す、またはその影響を減らすことができる可能性があります。


これまでに、プロトンポンプ阻害剤の服用により増加した日和見感染症を引き起こす病原菌が、その服用を中止することにより減少したと報告されています。


また、服用する薬の量が多い人では、Streptococcus 属やLactobacillus (ラクトバシラス)属などの腸内細菌が増加し、特定の代謝経路に関わる遺伝子が増加しましたが、薬の量を減らすことでこれらの腸内細菌や遺伝子が減少したと報告されています。


医師や薬剤師とともに服用する薬について再検討し、もし不必要な薬があれば、その服用を中止することで腸内細菌叢を回復できるかもしれません。


最後に


ここでは、抗生物質以外の薬であっても腸内細菌叢を変化させる場合があることを紹介しました。
ただし、病気の治療には処方にもとづく薬の服用が大切です。


自己判断で薬の量を減らしたり、服用をやめたりすることはおすすめしません。


薬について気になる場合は、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。


また、現在の服薬による腸内細菌叢への影響が気になる方は、一度自身の腸内細菌叢を検査してみてもいいかもしれません。


参考文献
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Morita, Y. et al. Diabetes Care 43, 1796–1802 (2020).



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