新型コロナウイルス感染症と腸内細菌叢


2022年4月に累計感染者数が世界全体で5億人を超え、いまなお多くの人の日常生活に大きな影響を及ぼし続けている感染症のひとつ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。


治療法や感染のメカニズム、重症度に影響を及ぼす要因の研究が進められているなかで、その要因のひとつとして挙げられているのが腸内細菌叢です。


そこで今回は、COVID-19と腸内細菌叢の関連性について、注目すべき研究結果をいくつかご紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.COVID-19患者の腸内細菌叢には特徴があり、重症化にも関係している
  2. 2.後遺症についても腸内細菌叢が関係している


COVID-19患者の腸内細菌叢には特徴があり、重症化にも関係している


2021年4月、香港中文大学の研究グループにより、COVID-19患者と健常者との腸内細菌叢の比較や、重症化との関係についての研究結果が発表されました。


COVID-19患者の腸内細菌叢は、健常者に比べて有意に増加している菌、有意に減少している菌があり、特に減少している菌には免疫調節作用があると報告されているFaecalibacterium(フィーカリバクテリウム)属 prausnitzii(プラウスニッツイ)種、Eubacterium(ユーバクテリウム)属 rectale(レクターレ)種、 Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)属 adolescenti(アドレセンティス)種が含まれていました。


なお、このうちのFaecalibacterium属 prausnitzii種とEubacterium属 rectale種は、酪酸産生菌であることが知られています。


また、このような腸内細菌の構成は治療終了30日経過後も変動がなかったとのことです。


腸内細菌の構成は、患者の重症度や血中の炎症性サイトカインの増加とも関連していたことから、腸内細菌叢のバランス不全(ディスバイオシス)が宿主の免疫応答の調節を介して、重症度に関与している可能性があると考察されています。


2021年10月のブラジルの研究グループの発表においても、COVID-19患者の腸内細菌叢には、健常者に比べて有意に多い菌、少ない菌があり、特にBacteroides(バクテロイデス)属に属する複数の菌種が多いことが報告されています。


このことについて発表者は、先行研究でBacteroides属に属する複数の菌種がコロナウイルスの結合部位でもあるACE2受容体の発現を抑制すると報告されていることを引用し、腸管内の自然免疫の調整機能をもつACE2受容体の発現が低下することによって、腸管内の炎症や栄養失調を引き起こす可能性があることを述べています。


また、重症度が高くなるほどRoseburia(ロゼブリア)属などの酪酸産生菌が減少するという関係が示されており、COVID-19患者は酪酸の代謝経路に変動をきたしている可能性があることも指摘されています。


一方で、重症度が高くなるほど、自己免疫疾患で増加する菌や炎症促進作用が報告されている菌が増加していることから、このような菌がサイトカインストームなどの免疫の過剰活性を促進させて重症化に寄与している可能性が示唆されています。


また、2021年11月には名古屋大学の研究グループから、日本を含む10カ国953名の腸内細菌叢データと各国のCOVID-19による死亡率のデータの相関を分析した結果が発表されています。


これによれば、腸内細菌叢に占めるCollinsella(コリンゼラ)属の比率が低いほど死亡率が高く、Collinsella属の比率が高いほど死亡率が低いという関連性が見いだされたとのことです。


Collinsella属は腸管内で一次胆汁酸から二次胆汁酸の一種であるウルソデオキシコール酸(USDA)を産生することが知られており、USDAについては、コロナウイルスが細胞内に侵入するACE2受容体への結合阻害、強力な抗酸化能、抗アポトーシス作用、重度の呼吸不全症の肺胞液排出を促す効果があると報告されています。


発表者は、Collinsella属が産生するUSDAにより、コロナウイルスに対する感染防御力が高まるとともに、サイトカインストーム症候群を抑制することで、重症化した際にみられる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を緩和させる可能性があると考察しています。


新型コロナウイルス感染症と腸内細菌叢



後遺症についても腸内細菌叢が関係している


感染や重症化だけでなく、COVID-19の後遺症と腸内細菌叢との関連性についても研究されています。


2022年3月の香港の研究グループの発表によると、入院から6カ月経過後も後遺症が続く患者において、Faecalibacterium属 prausnitzii種 などの酪酸産生菌やCollinsella属が、健常者と比べて減少していたとのことです。


このように、腸内細菌叢とCOVID-19の感染、重症化、後遺症との関連性を示唆する研究結果が報告されており、その共通点として、COVID-19患者や後遺症のある患者においては一部の酪酸産生菌が減少していたことと、二次胆汁酸産生菌であるCollinsella属が減少していたことが挙げられます。


また、今回詳しくは紹介していませんが、酪酸産生菌はワクチン接種後の抗体産生量と正の相関を示したとの報告もあります。


COVID-19の流行が長引くなか、腸内細菌叢の観点から感染や重症化を予防することができる可能性が見出されており、当社においてもそうした研究に取り組んでいます。



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