日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在
─大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析─
掲載誌 国際学術誌 『Biomedicines』( 2023年1月27日付掲載) 研究グループ シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 増山 博昭
同上 研究開発本部 畑山 耕太・香野 加奈子・大熊 佳奈・蓮子 和巳
一般財団法人辨野腸内フローラ研究所 理事長 辨野 義己
日本人の大規模な腸内細菌叢データセットを用いて、疾病に罹患していない日本人集団(男性 2 ,136人、女性 4 ,327人)の腸内細菌叢における性差を年代別に調査しました。その結果、腸内細菌叢には性差が存在し、かつそれが年齢の影響を受ける可能性があることを世界で初めて明らかにしました。また、20 代から50 代までの各年代間では、腸内細菌叢の多様性の面で性差の特徴が異なっていること、60代と70代では性差は小さくなる傾向があることもわかりました。
性別で違いが見られる腸内細菌の菌属としては、男性ではFusobacter ium、Megamonas、Megasphaera、Prevotel la、およびSutterellaが多い傾向、女性ではAlistipes、Bacteroides、Bi f idobacter ium、Odor ibacter 、およびRuthenibacter iumが多い傾向がありました(図1)。
次に、本研究では疾病に関連する可能性がある腸内細菌が男女間で異なるかどうかについて分析しました。分析に用いたデータセットにおいて、いくつかの年代にわたって男女ともに罹患者が存在する12の疾病(潰瘍性大腸炎、2型糖尿病、胃炎、逆流性食道炎、腎臓病、肝臓病、不整脈、狭心症、緑内障、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎)を分析対象にしました。分析した12の疾病のうち、ここでは潰瘍性大腸炎に関する結果をご紹介します。本研究では、潰瘍性大腸炎に関連する可能性がある菌属の特定を、40代から60代の各年代で行いました。
その結果、各年代の男女で潰瘍性大腸炎に関連する可能性がある菌属の多くが異なりました(図2)。唯一、But yr icimonasだけは、すべての年代の男女で、本疾病に関連する可能性のある菌属として観察されました。また、各年代の男女間で疾病に関連する可能性がある菌属に一部共通性があることが観察されましたが、それらは年代を超えて一致する傾向はみられませんでした(例えばAcidaminococcus)。
図1:日本人の男女間で違いがみられた腸内細菌の菌属
疾病に罹患していない日本人男女の腸内細菌叢を菌属レベルで年代ごとに比較し、男性と女性のそれぞれに多い菌属を色の濃淡で示しました。
有意差が認められた区分には*を付しています。
その他の11疾病に関しても、各疾病に関連する可能性がある菌属の多くは、各年代の男女間で異なっていました。各疾病に関連する可能性のある菌属の中には、各年代の男女間でいくつかの共通性が見られるものもありましたが、それらは年代を超えて一致する傾向はありませんでした。これらの違いは、日本人の腸内細菌叢に性差と年齢による違いが存在することに起因した可能性があります。
各疾病において、それらに関連する可能性がある腸内細菌の菌属が男女で異なり、年代でも異なることは注目に値します。疾病と腸内細菌の関連性について多くの先行研究がありますが、疾病に関連する腸内細菌に関しては研究間で矛盾が見られることが多くあります。このような矛盾が生じる原因の1つは、研究対象とした被験者の性別および年齢構成の違いが影響している可能性が考えられます。
本研究の結果から、疾病に関連する腸内細菌は性別および年齢によって異なる可能性があることが示されました。
このため、腸内細菌叢に関する研究において性別や年齢が考慮されていない場合、研究結果がそれらの影響を受けている可能性があることが見落とされてしまう懸念があります。また、そのような研究に基づいて開発された腸内細菌叢に関連した疾病の予防や治療のためのアプローチは、人によっては十分な効果が得られない可能性があります。
本研究によって、腸内細菌叢と疾病の関連性に関する研究や、腸内細菌叢をターゲットとする疾病の予防や治療のためのアプローチの研究においては、性別と年齢を考慮することが極めて重要であることが明らかとなりました。
図2:潰瘍性大腸炎の罹患者群と対照群の腸内細菌叢を比較したALDEx2解析の効果量
比較は年代別と男女別に行い、対照群は疾病に罹患していない日本人としました。本研究では、効果量の絶対値が0.2を超える値を示した菌属を潰瘍性大腸炎に関連する可能性がある腸内細菌の菌属としました。潰瘍性大腸炎に関連する可能性がある菌属のうち、対照群と比較して罹患者群で存在量が多い関係性を示した菌属(効果量の値が-0.2未満)をピンク、罹患者群で存在量が少ない関係性を示した菌属(効果量の値が0.2を超える)を水色で示しています。
原論文情報
Kouta Hatayama , Kanako Kono, Kana Okuma, Kazumi Hasuko, Hiroaki Masuyama, Yoshimi Benno.
Sex Differences in Intestinal Microbiota and Their Association with Some Diseasesina Japanese Population Observed by Analysis Using a Large Dataset. Biomedicines2023, 11(2),
376, doi:10.3390/biomedicines11020376.
https://www.mdpi.com/2227-9059/11/2/376